杉浦日向子と出会った頃のこと~始まりは川柳だった~

読書と編集 千葉直樹です

僕にとって
五・七・五といえば川柳だった

しかも漫画から入った

カバーの本、ずいぶん傷みが激しいでしょう?

昭和62年に出された本なんです。中の紙も相当ヤケていて、綴じも緩んじゃって扱うのに少し気を使う本になってしまいました。

この本は就職してすぐに横浜に住んでいた頃に、井土ヶ谷という駅の近くの本屋さんで見つけて買いました。

当時のことはなぜかよく覚えています。

本屋さんで偶然見つけた本ではあるのですが、これには前段があります。

就職前、実家にあった雑誌にこの「風流江戸雀」が連載されていたのです。連載されていたといっても実家にあったのは1冊か2冊。数ページの短い漫画でした。

なぜかそれがとても気に入って、何度も見ていました。

この漫画が「川柳」というものを漫画化したものだというのを知ったのはこの本を見つけてからのことです。

この本には86の川柳が載っています。それをストーリーにした漫画で構成されています。

漫画は帯に「日向子浮世絵」と書いてあるとおりの独特のタッチです。この世界観、何度見てもゾクゾクするくらい楽しいのですよ。

カバーの和紙の風合いはとてもいいし、可愛くちまちまと描かれた絵は、きっと北斎漫画を意識したものではないかと思います。

カバーの汚れは、僕がこの本を随分読んだということを表しています。汚れてしまったのはもったいない感じもしますが、これは僕の日向子さんへの愛の証(笑)。

でも、これ以外の作品を読むようになったのは随分後でした。NHKで「お江戸でござる!」という番組がありました。ひとしきりコメディタッチの舞台時代劇があって、その後に杉浦日向子さんが解説をする。その解説のなかに出てくる江戸のキラキラ生き生きとしたイメージから、「あっ!この人があの漫画を描いた人なんだ!」と思い出すという、ファンと名乗るにはちょっとのんびりしすぎな経緯で、そこから杉浦日向子さんのさまざまな作品を読むようになったというわけです。

江戸時代は遠く見えて、そこに生きた人々の心根は現代を生きる僕たちとなんら変わらない。そういう信念が綿密な時代考証に裏付けられたものであることをさまざまな背景から知ることになりました。

中学生時代はエンジニアを目指した(たぶんコンピュータオタクだったと想像します)日向子さん像も、テクノロジーとかデザインとかそういう実用的なモノをきちんと押さえて生活・文化を表現することができる思考の持ち主であることを証明するように感じたものでした。

今、久しぶりに出してきた「風流江戸雀」。また楽しく読んでしまうのは仕方がないのです。

好きな川柳を選んでおこう

この本の川柳はどれも好きなのですが、あえてひとつ選んでみましょう。

細見を みてこいつだと 女房いい

細見というのは「吉原細見」という吉原遊廓のガイドブックです。今でもメジャーな盛り場にはそういうの結構あると思います。

ただ、この川柳の面白いところは、そういうガイドブックを、女房が見て「こいつだ」と言っていることですね。

背景を言うと、夫が朝帰りしてきて朝から夫婦喧嘩になって、「吉原に行ってきたんだろう?相手は誰だったんだい?」と大変な剣幕で問いただされて、観念して夫が遊女の名前を言うんですね。それを聞いて、女房は細見を出してきて、名前を調べて、「こいつだ」と言っている。という場面。

これ、何が面白いのかと言うと、

細見はわりと普通に家にあるということ。まあ、今なら週刊誌が家にあるという感じでしょう。

これから想像できることは、吉原というところが、今で言えば芸能界みたいな場所でもあったということですね。単純に「悪所」というわけではないのです。花魁はトップスターなんですね。

今なら、アイドルグループの公演を観に行って、握手会で握手してきた。って感じに近いかもしれません。

もちろんもう少し濃厚な接触もあったでしょうけど、「五人廻し」という落語の演目にもあるように、深い仲になるのはなかなか難しい場所でもあって、そういう事も含めてわりと世間一般に認知された存在がいるところが吉原。

なんとなく会えるアイドルがいる場所に近い。

こういうと目を吊り上げる人もいるでしょうけど、まあ現実はそんなところかもなと思うのですね。

そういう風に捉えると、見え方は随分違ってくる。自分のものの見方はひょっとしたら随分偏っているんじゃないか?そんなことを考えてしまう川柳だなと思います。

もちろん他にもたくさん好きな句がありますけどね。杉浦日向子的な世界観を知っていただくのにとてもよい川柳だなと思います。

そんなわけでこれを選んでおきましょう。

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